2016年5月12日木曜日

JR九州続々採用 上下制振制御システムとは




最近ではローカル線の活性化策として旧型車両を改造した観光列車が運行されています。旧型車両がローカル線を走るが故に起こる乗り心地の悪さを改善するため、上下の揺れを低減する「上下制振制御システム」をJR九州は採用しています。今回は縁の下の力持ち的な技術を紹介します。

なぜ乗り心地が悪い観光列車があるのか?

車両が古い

観光列車と言っても様々なものがありますが、ある程度実績のある路線を走る列車には新型車両が投入されます。しかし、実績がない路線に一両あたり1億を優に越える新型車両を投入するのは、鉄道会社としても大きなリスクです。

そこで最近流行っているのは、旧型車両を改造して観光列車にするという方法です。旧型車両であれば改造費のみで済みますし、鋼鉄製の古い車両であればステンレス・アルミなどの最近の車両より自由度が高く改造できる利点もあります。思ったより人気が出なければ気軽に廃車にも出来ます。

逆にデメリットとしては旧型であるため、最近の電車より五月蝿かったり振動が激しかったりします。今回注目する上下の振動という問題においてですが、改造用の車両の台車が最近の車両と同じ空気バネを採用しているタイプであればまだマシなのですが、コイばねの場合は更に乗り心地が悪くなります。観光列車はローカル線を走る関係で古い気動車が改造車のベースとなる場合も多く、コイルばねを使った台車の場合も多くあります。

線路の状態が悪い

都市部の通勤路線や貨物が多く通る幹線などであれば、線路は太くしっかりした繋ぎ目の少ないロングレールが採用され、枕木はコンクリート製で保線も頻繁に行われています。

しかし、運行本数が少なく利益の出ないローカル線では、最低限の設備投資となります。そのため線路は必要最低限の太さで、継ぎ目の多い昔ながらの線路を使用し、保守も最低限となります。それにより振動が大きくなり乗り心地が悪くなります。

旧型車両に装着できる可変減衰上下動ダンパー

当たり前ですが、電車が走っていれば揺れます。その揺れを抑えるため、横揺れに対しては近年様々な対策が採られています。数々の技術の中で「セミアクティブサスペンションダンパー」というものがあります。これは進行方向に対し垂直に取り付けた可変減衰ダンパーのダンパー内に内蔵した弁を電子的に制御し硬さを調整、横揺れを低減するものです。「フルアクティブサスペンションダンパー」のような動力源を必要としないのも利点です。

上下振動制御に使う「可変減衰上下動ダンパー」も根本の理屈で言えばおおよそ同じです。車体に速度や振動を感知するセンサーを装着し、そのデータを下に台車に垂直に取り付けられた可変減衰ダンパーの硬さを電子的に制御して揺れを低減します。

この装置の一番よいところは後付できることです。この装置は最初に紹介したような観光列車の旧型車両・ローカル線特有の乗り心地の悪さを念頭に、JR九州と鉄道総研が共同で開発しました。そのため、最初から後付可能な装置として開発されました。

当初はコイルばね台車に後付けするため開発されましたが、「ななつ星in九州」を製造にするにあたり空気バネ台車台にも取り付け可能なよう改良がされました。今では空気ばねでもコイルばねでも取り付けることが可能です。「ゆふいんの森」に使用されている2編成のうち1編成はキハ70系とキハ71系の混成編成です。キハ70系はコイルばねでキハ71系は空気ばねと台車の種類も混載していますが、両形式に「可変減衰上下動ダンパー」を搭載しても問題ないほどに進化しています。

更に動力源を必要としない構造のため、コスト低減・信頼性向上・構造の簡素化にも一役かっています。安全性という点では制御システムの電源をOFFにすると、普通のダンパーと同じ用に作動するよう設計されています。そのためダンパー自体の破損以外は、電源をOFFにすることで一先ず安全に走行が可能となります。

これらの理由から改造費用を抑えつつ、乗り心地向上が可能となったのです。

JR九州で現在採用中は5列車

現在JR九州でこのシステムを採用しているのは「指宿たまて箱」「はやとの風」「ななつ星in九州」「或る列車」「ゆふいんの森(2編成のうち1編成)」の5列車です。

JR九州以外の採用については私のリサーチ不足のため分かりませんが、今後も多くの列車に採用されていくと思います。

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